第116章

会社で社長のために必死に働く渡辺尚輝は、突然「ハクション!」と大きなくしゃみをした。勢い余って書類が一枚、ひらりと宙へ舞い、床に落ちる。

「やっば……!」

慌てて拾い集め、尚輝は鼻をこすった。

「誰だよ……陰で俺のこと呪ってんのか……?」

……

大島莉理はソファに座り、スマホを耳に当てたまま田中辰哉と通話していた。少し迷ってから口を開く。

「でも、うちのクローゼットにもドレスはあるんですけど……」

「気に入らない?」田中辰哉が尋ねる。

「嫌いってわけじゃなくて……」

「なら受け取って」

スマホ越しでも分かる、甘く落ち着いた低い声。微かなノイズまで混ざって、耳の奥をくすぐる...

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